前章の続きの記事です。
目次
第二章 プロスポーツにおける既存するビジネスモデル
第一節 プロスポーツの多様な運営管理
プロ野球
経営面からプロスポーツ事情というものを見てみると、まず日本を代表する野球では毎年20~50億円の赤字が発生するという球団経営。
なぜ毎年赤字でビジネスが成立しているのか、人気低迷やスター選手の大リーグ流出の現状を踏まえ、プロ野球のビジネスモデルを考えると、過去のプロ野球球団の親会社はマスコミ・電鉄が大半であり、これは親会社の本業とのシナジー追及によるものでありました。
阪神タイガースであれば試合を見る為に阪神電車を利用し、阪神百貨店の利用機会を増やす助けになる。マスコミ系であれば新聞・テレビ・ラジオで取り上げればファンが増え、効果的な拡販ツールとなる。
しかし、現在でもその傾向は残るが、以前より重要度は低くなり、独自の歴史と人気を誇る阪神タイガース例外として、特に電鉄系では阪急・南海が同時に球団を手放し、近鉄の撤退で電鉄系でのシナジーはなくなりつつあります。
プロ野球のビジネスモデルを考える上で最も重要な事は、プロ野球に関する税金の取り扱いに関して記載された国税庁の通達であり、ポイントは選手の年俸なども含めて、球団に赤字補填した場合はすべて親会社が広告費として税務上損金扱いできるということです。
ゴールデンタイムの野球中継時の広告効果や、ニュース番組のスポーツコーナーでは野球が真っ先に取り上げられる事に伴い、企業名を放送する。
これらの効果はまさに、球団赤字の20~50億円にあたり、付加価値も大きいとみなす企業は少なくないと考えられます。
特に日本ハムやヤクルトなど全国をカバーする中堅食品メーカーや楽天・DeNAなどの成長企業にとって、広告効果は絶大でプロ野球ブランドは魅力的なものです。
問題はプロ野球の人気低迷や、国税庁の通達が覆される事であり、いつまで日本のトップスポーツでこのビジネスモデルが適用されるかは分からないが、現在のプロ野球においては、球団経営そのものが赤字であっても、付随する広告効果があれば充分という広告費ビジネスモデルなのです[vii])。
Jリーグ
次にJリーグを考えれば、Jリーグでは地域密着型のビジネスモデルで、地元からの熱い支持を得ることで集客し、地元のスポンサー広告や地元テレビ局で放映料を伸ばしていくモデル。
このようなビジネスモデルであるため、地域に根差したイベントや交流にも積極的であり試合以外に選手に触れる機会を創る事で、提供価値の最大化を目指した収益方法がJリーグの主流です。
しかし、このビジネスモデルでは東京・大阪・名古屋の集中度が高い都市では弱い事が課題です。
特に東京では地元愛を感じにくい都市であることは否めません。
大阪においては阪神タイガースの独壇場であり、2チームが健全経営するにはあまりに厳しい環境と言えます。
そういった意味で、前述したセレッソ大阪のチーム方針はサッカー界の現状として非常に効果的な方針であったのではないかと考えられます。
NLF
その他にも代表されるビジネスモデルとして、NFLの各チームがバラバラの意思決定の仕組みを止め、リーグ一元管理で運営されるビジネスモデルや、他国リーグを巻き込むようなサッカーのUEFAチャンピョンリーグなどがあります。
他国リーグと合併するモデルであれば、グローバル化の進む昨今で海外への広告効果も期待できますし、特にNFLであれば、日本人にとってアメリカのスポーツといえばMLBの野球と認識されがちですが、アメリカ国内ではアメフトのNFLの方が人気スポーツです。
支持率では1位のNFLが34%、2位のMLBが16%で大きくNFLがリードしており、約50年間もアメリカのトップスポーツとして君臨し近年でも支持率も上昇傾向にあります。
更には地球上最大のスポーツイベントと呼ばれるスーパーボウルのブランド価値は470億円で、オリンピックやサッカーW杯を上回ります。
テレビ視聴率は20年以上40%突破しスーパーボウル中のCMの価格は30秒枠で平均約3億8000万円、再販の観戦チケット代は平均約37万円と、まさにビッグマネーの動くビッグイベントです。
レギュラーシーズンは年間16試合と短く、ヘルメットで顔が認知されにくくスター選手が生まれにくいように思われるアメフトが、なぜ国民的人気を得るに至ったのか。
それはまさに先述したビジネスモデルにある。
格差を取り払い、最高レベルで均衡したチームが競争を繰り広げることこそが、スポーツの最大の魅力であるという理念を下にゲームの商品価値を最大限に高めています。
これを可能とする制度がリーグ利益を各チームに均等に分配する「レベニュー・シェアリング」、選手獲得に投じる金額を制限してスターの一極集中を防ぐ「サラリーキャップ」、前シーズンの下位チームから優先的に指名できる「ウェイバー制ドラフト」であり、これらを3本の柱としてレベルの均衡を保ち、常にスポーツの醍醐味である競り合いを演出しています[viii])。
このビジネスモデルを可能としている背景に、あらゆるスポーツビジネスで最も洗練された経営がなされているというNFLのリーグ一元管理運営があります。
その他にも、週一回の試合をアメリカ人のライフスタイルに合わせ家族で観戦できるように設定されています。
このモデル実現のためには、コミッショナーの強い権限と、本部の卓越したマーケティング力、構想力、知恵などが必須です。
これこそがスポーツの商品価値を最大限に生かしたNFLのビジネスモデルであり目指すべきものではないかとマネジメントの観点から考えることが出来る。
スポーツの商品価値を高めることが、エンドユーザーであるファン・メディア・スポンサーからの収益へと繋がっていきます。
第二節 トップリーグの企業スポーツとしての優位性と劣位性
トップリーグについては「企業スポーツの堅守」を掲げ2003年に発足されました。
1980年代に最盛期を迎えた企業スポーツであるが、1990年以降の経済不況により下降線です。
日本ラグビーも例外なく衰退してしまったが、企業スポーツに分類されるスポーツは景気が回復していけば、最盛期のような盛り上がりを見せるのかが疑問点として浮かび上がります。
確かに、企業が経済的に潤えば所持しているチームにも金銭的援助を行う事が出来、強化・環境整備やチームプロモーションなどにも力を注ぐ事が出来ます。
しかし、それでもプロスポーツには及ばない事は推測できる。もし、景気が安定していない状況においても利益を上げる事が出来るのであれば、企業に依存する必要はなくなるとも考えることもできます。
企業スポーツの最も評価できる点はセカンドキャリアの完備や地域での興業ですが、経済状況に大きく左右されてしまうのではスポーツとしての潜在価値が下がってしまいます。
現に休廃部に至ってしまう企業スポーツが多くある現在の経済状況ではプロ化が進むスポーツ界でも時代遅れであると言えます。
企業スポーツがその興業だけで多くの利益を生み出し続けることが出来るのであれば、セカンドキャリアの確保もでき、問題もなく賞賛されるモデルと言えますが、ここでも企業人として企業の業績に影響されてしまう恐れも否めません。
プロスポーツと企業スポーツで大きな違いは、セカンドキャリアのリスクを負うか、企業から受ける影響のリスクを負うかであり、難しい問題ですが、アマチュアリズムを長く保ってきたラグビーにおいては完全なプロ化への移行がスムーズでないことが感じられます。
注
[vii])「ビジネスモデル―日本プロ野球のビジネスモデル(スポーツと経営学)」
http://www.globis.jp/2014?print=true 2013/12/18
[viii])「Sports navi」